STEP 1：受託解析の依頼内容

孤発性統合失調症発症仮説の一つを模倣し開発されたMaternal immune activation model rat（MIAラット）は、一部の統合失調症患者の脳神経病理を良く模倣したモデル動物であり、このモデル動物の脳神経病理を詳細に研究する事で新たな治療法の開発が出来るのではないかと期待される。しかし、MIAモデルと相同の脳神経病理を有する統合失調患者を単離する方法が存在しなければ、例え治療法が開発されても、治療対象患者を確定できないという問題がある。そこで、患者の血液サンプルから簡便にそれをスクリーニングするバイオマーカーの探索の依頼を頂いた。

STEP 2：二次元電気泳動の画像取得

MIAラットとコントロールラットの血清サンプル（各3検体）に関して二次元電気泳動実験を行い、変動しているタンパク質の解析作業を行った。
解析条件
１次元目の電気泳動条件：Immobiline DryStrip pH 4-7, 18 cm（17-1233-01 GEヘルスケア社）
２次元目の電気泳動条件：12％ ポリアクリルアミドゲル（社内作製）
染色方法：Flamingoゲルステイン蛍光染色（161-0492 バイオ･ラッド ラボラトリーズ社）
撮影方法：フルオロホレスター3000（140万画素冷却CCDカメラタイプ）

各サンプルに関する6枚の画像データです。

二次元電気泳動の画像解析

画像解析は、二次元電気泳動用ソフトウェア･ProgenesisPG220（Nonlinear Dynamics社）を使用する。ソフトウェアの自動解析機能により、各画像から1,000個を超えるスポットが検出された。さらに、各画像を比較し、変動しているスポットの絞り込み作業を行い、変動しているスポット群の中で、MIAラットの画像全てで高発現しているスポットを報告した（図5）。

STEP 3：質量分析解析

MIAサンプルで高発現している No．1115のスポットのLC-MS/MS解析を行った解析結果は下記です。
最もスペクトルカウント数が高いタンパク質はIg Kappa chain C region。検出されたペプチドのスペクトルカウント数は122で総スペクトルカウント数の50％を締め、また、カバーレッジも100％でした。

依頼者のご感想

以前よりモデル動物の血液に含まれるタンパク質群を精査したいと思っていましたが、二次元電気泳動による解析は高い技術力を必要とすることから受託実験費用も高く躊躇していました。今回、アナッテクさんで精度の高い受託実験を安価に行えることを知り、お願いしたところ十分に満足できる結果を得ることができ、感謝しています。
この実験結果を足掛かりに研究を進めた結果、このマーカータンパク質は実際の孤発性統合失調症患者にも応用可能であることを見出し、国際学術誌に論文を掲載することも出来ました。
アナテックさんの実験結果には非常に満足しています。

（上記画像及び解析結果はOh-Nishi A et al. A possible serologic biomarker for maternal immune activation-associated neurodevelopmental disorders found in rat models. Neuroscience research 2016 (In press)　より一部改変して引用）

担当者のコメント

統合失調症のバイオマーカー探索ご相談を頂き、診断が困難な精神・神経疾患の診断薬開発の足掛かりを掴むためにモデル動物の血液に含まれるタンパク質群を精密に解析したいとの説明を受けた時は、重要な受託作業になると興奮した事を覚えています。二次元電気泳動の画像解析作業は大変でしたが、候補となるスポットが見つかり、また、LC-MS／MSの結果から、信頼度の高い同定結果の報告できましたので、本当に良かったです。このバイオマーカーは実際の患者に応用可能であることを依頼者から報告を受けており、病気で苦しむ患者さんに役立つ事を期待しています。

今回の依頼解析から見つかりましたバイオマーカー(Ig kappa light chain )を検出する研究用抗体がRESVO社で製造され、当社から販売を行っております。